米国IPO週報 x SDGs

SDGsに関連するスタートアップ

SDGs(持続可能な開発目標;2030アジェンダ)では、17のゴールについて、小項目も含めると、169ものアジェンダが提示されている。具体的なアジェンダを見ていくと、多くは国家の制度や政策の指針、国家間の取り決めや協力を示すもので、民間企業が事業を通じて関わる余地は限られている。見たところ169のアジェンダのうち民間企業が参画できそうなアジェンダは2割程度に過ぎなかった。例えば、Goal 16の「平和と公正をすべての人に」の各アジェンダは国家や国際間の司法制度に関するもので民間企業がイニシアティブをとることは難しい。もちろん 「平和と公正をすべての人に」はとても幅広い概念なので、その解釈次第では自社の活動に結びつけることができるだろうし、そのようにして事業を推進することにはメリットしかないだろう。また、国家の役割という固定観念を取り払ったところにこそ課題解決の活路が見出せるのかもしれない。しかし、ここでは各アジェンダをなるべく文字通りに解釈しつつ、民間企業の関与が見られるアジェンダを抽出して、最近の「米国IPO週報」から関連するスタートアップを探してみた。

国際連合の設立以来の大きなテーマとして安全保障と国際協力がある。1970年代以降はいわゆる南北問題(先進国と発展途上国の経済格差是正)、1990年代以降は地球環境問題(持続可能な開発)が未解決の課題として残っている。SDGsはこうした歴史の積み重ねの上に成り立っていて、次世代に向けて国連専門機関の目標を整理し直したものである。欧米では1970年以降、国連を含む公的機関の官僚組織の硬直化や実行力の不足を背景に、NPOの台頭とプロフェッショナル化が進んだ。発展途上国支援や地球環境問題への取り組みはNPOがリードしているといっても過言ではなく、1992年にリオで開催された地球サミットはそのことを強く印象づけた。2000年代以降は、IT革命の余波とテクノロジーへの楽観論、補助金/寄付金ビジネス化した一部NPOへのアンチテーゼなどから、起業家による社会課題解決の取り組みが活発化した。日本の民間企業でも、社会的課題の解決を意識した新規事業開発やオープンイノベーションの取り組みが盛んになっており、そのなかでSDGsが恰好の指針を与えている。

目次:各ゴールに関連するスタートアップ

Goal 1:貧困をなくそう「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」(関連スタートアップはこちら
Goal 2:飢餓をゼロに「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」(関連スタートアップはこちら
Goal 3:人々に保健と福祉を「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」(関連スタートアップはこちら
Goal 4:質の高い教育をみんなに「すべての人々へ包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」(関連スタートアップはこちら
Goal 5:ジェンダー平等を実現しよう「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」(関連スタートアップはこちら
Goal 6:安全な水とトイレを世界中に「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」(関連スタートアップはこちら
Goal 7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」(関連スタートアップはこちら
Goal 8:働きがいも経済成長も「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する」(関連スタートアップはこちら
Goal 9:産業と技術革新の基礎をつくろう「強靱なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及び技術革新の推進を図る」(関連スタートアップはこちら
Goal 10:人や国の不平等をなくそう「各国内及び各国間の不平等を是正する」(関連スタートアップはこちら
Goal 11:住み続けられるまちづくりを「包摂的で安全かつ強靱で持続可能な都市及び人間居住を実現する」(関連スタートアップはこちら
Goal 12:つくる責任つかう責任「持続可能な生産消費形態を確保する」(関連スタートアップはこちら
Goal 13:気候変動に具体的な対策を「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」(関連スタートアップはこちら
Goal 14:海の豊かさを守ろう「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」(関連スタートアップはこちら
Goal 15:陸の豊かさも守ろう「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」(関連スタートアップはこちら
Goal 16:平和と公正をすべての人に「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」(関連スタートアップはこちら
Goal 17:パートナーシップで目標を達成しよう「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」(関連スタートアップはこちら

ご参考: 発展途上国市場で事業を展開する欧米のスタートアップ

全体のなかでは少数派だが、発展途上国市場で事業を展開する欧米のスタートアップも資金を調達しているので、各ゴールに関連するスタートアップとは別にここで紹介しておきたい。

(関連スタートアップ)

発展途上国向けモバイル銀行のBranchが$170M
https://branch.co/

発展途上国向けオンライン消費者金融のTalaが$110M
https://tala.co/

発展途上国向け携帯ソーラー電灯のd.lightが$41M
https://www.dlight.com/

発展途上国向け家庭用太陽光発電システムのLumosが$35M
https://www.lumos-global.com/

不動産情報サイトのLamudiが$31M(発展途上国の物件に特化)
https://www.lamudi.com/

発展途上国向け保険のBIMAが$30M(Allianzも出資)
https://bimamobile.com/

貿易金融のDrip Capitalが$25M(発展途上国の中小企業向け)
https://www.dripcapital.com/

発展途上国向け家庭用太陽光発電システムのMobisolが$16M
https://plugintheworld.com/

*金額は直近ラウンド;調達時期は様々

【更新情報】

オンライン消費者金融のTalaが$145M(発展途上国市場に特化)
https://tala.co/

発展途上国向け家庭用分散電源のZolaが$90M(太陽光発電と交流蓄電;$45Mは融資枠;Totalも出資)
https://zolaelectric.com/

(2021年10月18日)

公衆衛生データ解析のZenysisが$13M(発展途上国の政府機関向け)
https://www.zenysis.com/

(2022年7月2日)

米国IPO週報 x SDGs:Goal 1 No Poverty

Goal 1:貧困をなくそう「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」

(関連アジェンダ)

1.4 2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、すべての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、 天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。

(関連カテゴリー)

<フィンテック>

Goal 1 No Povertyは、主として国連による発展途上国の貧困対策に関連するもので、アジェンダ1.4ではGrameen BankKivaのようなマイクロファイナンスの取り組みが想定されている。米国の貧困問題は差別や格差の問題として認識されていて、既存の金融機関が相手にしなかった顧客層(Underserved Markets)に商機を見出すフィンテックのスタートアップなど、デジタル技術を駆使して採算性を確保しつつ機会の均等を実現しようとする取り組みが進んでいる。

(関連スタートアップ)

クレジットカードのPetalが$127M(クレジットスコア不要; $127Mは融資枠)
https://www.petalcard.com/

住宅購入支援のDivvyが$200M(Divvyが代わりに購入して賃貸;資金ができたら購入に切り替え;家賃の一部を頭金に充当)
https://www.divvyhomes.com/

賃貸不動産入居支援のRhinoが$95M(敷金制度の保険化;高額な敷金→低額な保険料)
https://www.sayrhino.com/

少額ローンのSeedFiが$65M(信用履歴構築支援;$50Mは融資枠)
https://www.seedfi.com/

フリーランス向けモバイル銀行のLiliが$55M
https://lili.co/

賃貸不動産入居支援のLeaseLockが$52M(敷金制度の保険化;高額な敷金→低額な保険料)
https://leaselock.com/

学生向けクレジットカードのDeserveが$50M(信用履歴構築支援)
https://www.deserve.com/

債務整理支援のSymendが$43M(行動科学とAIによる債務者エンゲージメント)
https://symend.com/

信用履歴構築支援のKikoffが$30M
https://kikoff.com/

マイクロ保険APIのDigiSureが$13M(ライドシェアなど)
https://www.digisure.ai/

*金額は直近ラウンド;調達時期は2021年(8月末まで)

Subscribe to get access

Subscribe(購読)すると本サイトのすべての記事が読み放題になります。料金はクレジットカード払いで月額8,554円です。詳しくはプレミアム版のご案内をご覧ください。

目次にもどる

米国IPO週報 x SDGs:Goal 2 Zero Hunger

Goal 2:飢餓をゼロに「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」

(関連アジェンダ)

2.3 2030年までに、土地、その他の生産資源や、投入財、知識、金融サービス、市場及び高付加価値化や非農業雇用の機会への確実かつ平等なアクセスの確保などを通じて、女性、先住民、家族農家、牧畜民及び漁業者をはじめとする小規模食料生産者の農業生産性及び所得を倍増させる。

2.4 2030年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭な農業を実践する。

2.c 食料価格の極端な変動に歯止めをかけるため、食料市場及びデリバティブ市場の適正な機能を確保するための措置を講じ、食料備蓄などの市場情報への適時のアクセスを容易にする。

(関連カテゴリー)

<環境、エネルギー、食糧生産>

Goal 2 Zero Hungerでスタートアップの取り組みが盛んなアジェンダとして2.4の「持続可能な食料生産システム」の確保がある。牧畜による食肉の生産は環境負荷が大きく持続可能ではないという観点から、Beyond MeatImpossible Foodsのように、バイオ技術を駆使した植物由来タンパク質食品である肉もどきの普及が進んでいる。今年も数多くの類似スタートアップが資金調達しているが、きりがないのでここでは割愛させていただく。食料の生産、備蓄、流通、消費に関連して廃棄ロスの問題も深刻だが、Goal 12 Responsible Consumption and Productionで紹介している。農業関連スタートアップとして、各種のデータ予測解析による精密農業、バイオ技術による農薬・化学肥料の代替や品種改良などがあるが、どちらかというと先進国の大規模農場の経営合理化や環境対策を目指すものとなっている。

(関連スタートアップ)

農畜産業向け育種データ予測解析のBenson Hillが逆さ上場(NYSE:STPC)
https://bensonhill.com/

農業バイオのPivotが$430M(発酵生産した根粒菌で化学肥料を代替)
https://www.pivotbio.com/

ProsperaをValmontが買収(農業データ解析;$300M)
https://www.prospera.ag/

遺伝子編集種苗のInariが$208M(時価総額$1.2B)
https://www.inari.com/

環境再生型農業意思決定支援のCIBOが$30M(農地画像予測解析)
https://www.cibotechnologies.com/

農業バイオのPairwise Plantsが$25M(遺伝子編集)
https://pairwise.com/

食用種子生産技術のEquinomが$20M(遺伝子組み換えでない胡麻など)
https://www.equi-nom.com/

農場管理のRegrowが$17M(温室効果ガス排出量の測定、報告、検証)
https://www.regrow.ag/about-us

*金額は直近ラウンド;調達時期は2021年(8月末まで)

Subscribe to get access

Subscribe(購読)すると本サイトのすべての記事が読み放題になります。料金はクレジットカード払いで月額8,554円です。詳しくはプレミアム版のご案内をご覧ください。

目次にもどる